ビートルズの凄さを改めて考える
「ビートルズって何が凄いの?」
そうストレートな質問をされると、ちょっとだけ、困ってしまいます。何から話してよいのやら…、です。「ビートルズ」という名前は誰もが耳にしたことがあるでしょう。でも、実際に「何がそんなに凄いのか?」と問われると言葉に詰まってしまいます。
もちろん、すごいのは知っています。感覚的にも理解できています。メロディや歌詞、革新的なサウンド、世界を揺るがした影響力など、その魅力はあまりにも多岐にわたります。でも、なかなか言語化できない。ここでは、その言語化に挑戦して、ビートルズがなぜ音楽史において揺るぎない存在となったのかを紐解いていきます。
まずは「世界クラスの作曲家が同じバンドにいた」という最大の奇跡を取り上げ、その背景にあったメンバー同士の相互作用を探ります。それから、10億枚超のセールスやビルボードTOP5独占といった圧倒的な記録を通じて、彼らの人気が一時的なブームを超えた理由を考察。最後に、ビートルズのスタイルや作品が切り開いた革新性と数字では測れない文化的遺産に光を当てます。
それではさっそく!
世界クラスの作曲家三人が同じバンドにいる驚異
ビートルズの最大の凄さポイントは、超弩級の作曲家が3人もいるところです。ジョンレノン、ポールマッカートニー。この二人だけでも凄いのに、ここにジョージハリスンも加わります。当たり前のことですが、こんなバンド他にはありません。天才が二人以上いる場合、共存できず崩壊するのが世の常ですが、ビートルズはそうじゃなかった。互いに刺激し合うことで名曲を生み出しています。ここでは、異次元のメンバーを紹介します。
ジョン・レノン ビートルズを作った稀代のカリスマ
言わずと知れたカリスマ中のカリスマ、ジョンレノンです。初期のロックンロール的な曲を作ったかと思えば、子供時代の孤独という個人的な感情やサイケデリック体験による鮮烈なイメージを元にしたが曲を作るなど、予定調和を完全に狂わせてくるぶっとんだ男です。
音楽的実験も好んで取り入れていて、例えばテープを逆回転させたり、最新楽器メロトロンを大胆に取り入れたりす、ワンコードで曲を作ったり、前衛音楽をやってみたり、やりことなすこと大胆です。ワイルドです。それでいてバンド内の精神的支柱。ジョンの創り出す音楽は、聴く者の魂を揺さぶり、想像力を無限に広げる力を持っていました。
ポール・マッカートニー 世界一の作曲能力
現代の音楽関連で天才を一人だけ挙げよと問われたら、ポールマッカートニーに最も票を集めるでしょう。ポールの作り出すメロディーは、誰もが共感できる普遍的な美しさを持っています。ビートルズの美しいメロディの曲を作ったのはだいたいポールです。
ジョンと同様に音楽的実験も数多くやっていて、特に革新的なベースのサウンドに注目です。ポールの場合、実験を完全に成功させる傾向にあり、それがゆえに、実験的な感じがしないのもすごいところ。まるで太古の昔からあったような感じで実験的なサウンド実現させています。ぶっとんだジョンとのパートナーシップは第二次世界大戦後の奇跡、神様からの人類に対するプレゼントだと思います。
ジョージ・ハリスン 東洋的静謐とスピリチュアル
ビートルズ第三の男と語られるジョージハリスン。初期の頃は、たしかにレノンマッカートニーの影に隠れた目立たぬ存在でしたが、中期後期のあたりになると才能が爆発!ラストアルバムの『Abbey Road』あたりになるとジョンとポールを凌駕するほどの才能をほとばしらせています。
「異国の香り」をロックに取り込んだ先駆者という点も見逃せませんね。インドの楽器、シタールを大胆に取り入れた「Norwegian Wood」で一気に話題をさらい、その後「Within You Without You」ではタブラやスワルを駆使。歌詞の面でもインド的なる深い瞑想的世界を提示しています。ところでビートルズ第三の男は、ビートルズ以外のだと第何位なんでしょうか?相当上位にくると思います。
リンゴ・スター 潤滑油としてのリズムと人柄
そしてバンドのムードメーカー、リンゴ・スターです。作曲は少なめですが、ムードメーカーとしてのバンドへの貢献はかなり大きなものがあったと思います。リンゴがいなければビートルズは長く続いていなかったかもしれない、そんな評価を得ています。
加えて、ミュージシャンとしてのリズム感も抜群。トレードマークの跳ねるドラミングは「Ticket to Ride」や「Help!」のグルーヴを支えています。リンゴ作曲の「Octopus’s Garden」では、誰もが思わず微笑むような柔らかいビートで、ビートルズの裏方的存在感を存分に示しています。
三者の相互刺激が生んだ化学反応
ジョンの実験精神がポールのメロディにスパイスを加え、ポールの親しみやすさがジョージのスピリチュアル曲をより広い層へ届ける──。そんな相互刺激が次々と化学反応を起こし、アルバムごとにまったく異なるサウンドスケープを生み出せたのがビートルズの強みです。三人の個性がぶつかり合わずに、むしろお互いを高め合う関係だからこそ、いまなお色あせない名曲が数多く残っているのです。
圧倒的な記録が物語る「異次元の人気」
全世界累計10億枚超のセールス
ビートルズがリリースしたシングル、アルバムをすべて合算すると、なんと10億枚を超えるセールスを記録しています。当然ながら、これは人類の歴史上ダントツ1位の記録です。驚くべきことに、この数字は結構前の数字で、もちろん配信なんかもない時代の記録。その時点ですでにダントツなわけです。レコードからカセット、CD、そしてデジタルへと音楽フォーマットが移り変わる中、この数字は更新され続けているはずです。
世界各地のレコード店やラジオ局で繰り返し再生される姿は、まるで音楽界全体がビートルズの旋律に引き寄せられているかのようですね。ビートルズが存在しない世界なんて想像できないのです。
ビルボードでトップ5独占の衝撃
前人未到は、まだまだあります。1964年4月4日、米ビルボードHot 100チャートで上位1位から5位をビートルズが独占しました。何が凄いかって、ビートルズ側はレコードを一気に出していないこと。すでにリリースしていた作品が徐々にチャートを駆け上がり、トップ5を独占したのです。その時のトップ5のラインナップはこちら。
- Can't Buy Me Love
- Twist and Shout
- She Loves You
- I Want to Hold Your Hand
- Please Please Me
さすがにこの週の6位から10位までは他のミュージシャンの作品でしたが、この週、ビートルズは合わせて12曲をチャートインさせています。爆発的人気とハイクオリティ楽曲の合わせ技一本です。この現象は「音楽史に刻まれる一瞬の奇跡」と語り継がれています。アメリカ全土がビートルズ旋風に包まれ、新聞の見出しにも「ビートルマニア」の文字が躍りました。
活動期間中の首位キープ率は約4割
ビートルズはわずか8年ほどの活動期間中、英国アルバムチャートのトップを175週間、米ビルボード200で132週間維持しました。単純計算すると、活動期間の4割近くの時間を1位で過ごしていたことになります。現代のようにストリーミング配信やSNSで次々と新曲が登場する環境では考えられないほどの“長期支配”です。まるで一つの季節がまるごとビートルズの音楽に彩られていたかのような感覚を、1960年代の人たちは体験しています。うらやましい。
数字を超えた熱狂の背景
こうした記録を支えたのは単なる数字以上の“熱狂”です。ライブ会場では観客の悲鳴が演奏をかき消すほどの熱気となり、ビートルマニアと呼ばれた若者たちは髪型やファッションを真似し、雑誌やテレビは連日ビートルズ特集を組みました。音楽を聴くだけでなく、彼らの存在そのものが文化現象となり、人々の心と生活を大きく揺り動かしたのです。
ビートルズの活躍を見て、考え方や生き方が変わった人が多くいたことを考えると、「文化現象」の一言で片付けてしまうのはいけない気もします。
これらの圧倒的な記録は、ビートルズが一過性のブームではなく、世代を超えて支持される“時代を超えた力”を持っている証と言えるでしょう。次は、数字では語り尽くせない文化的遺産にさらに迫っていきます。
音楽と文化を変えた遺産的功績
自作自演で築いたセルフプロデュースの原点
ビートルズ以前、作詞作曲、演奏、プロデュースがそれぞれ別の専門家に任されるのが当たり前だった音楽業界。ビートルズは、自分たちで曲を書き、自分たちで演奏し、スタジオでの試行錯誤にも積極的に関わるセルフプロデュースのスタイルを貫きました。
プロデューサーのジョージ・マーティンと二人三脚で、多重録音やテープエコー、ピアノの逆回転など斬新な手法を次々と取り入れ、まさに「自分たちだけの音」を追求したのです。この姿勢が後の世代に大きな影響を与え、アーティスト自身が制作をコントロールする今の常識を形作りました。
『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』ポップミュージックのアート化
1967年6月1日にリリースされた『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』は、「単なる曲の寄せ集め」だったLPの常識を覆し、アルバム全体を一つの“物語”として楽しむ体験を生み出しました。ジャケットではメンバーが架空のバンドに扮し、曲順や効果音、ライナー・ノーツまでがステージ演出の一部に。逆回転トラックやチャイムの小ネタを挟みつつ、リスナーはまるでライブ会場にいるかのような臨場感を味わえます。
さらに、この作品は「ポップミュージックも立派なアートになり得る」という新しい価値観を世に示しました。オーケストラや室内楽的なアレンジを大胆に取り入れた音世界は、従来のロックの枠を超えており、レコーディングはまるで美術家がキャンバスを重ねるように多重録音で色彩を重ねるスタイル。ジャケットに描かれたカラフルな肖像群は、レコードを手に取る瞬間から「鑑賞」のモードへとリスナーを誘います。発売当時の評論には「ポップソングが美術館の展示品のように扱われうる瞬間が訪れた」との声もあり、以降、ポップアルバムを芸術作品として磨き上げる手法は世界中のアーティストに影響を与えました。
横断歩道が聖地化 『Abbey Road』の文化史的意義
1969年9月26日に発表された『Abbey Road』のジャケットでおなじみの横断歩道は、音楽ファンにとっての聖地です。アルバム自体もB面のメドレー構成や多彩なサウンドで評価されましたが、何よりあの一枚の写真が世界中の人々の心をつかみました。
ジャケットに写っているのは、ビートルズの4人がわたる超有名なあの横断歩道です。ファンの聖地というか、イギリスの観光名所です。この横断歩道のすごいところは、英国の文化的・歴史的遺産に指定されているところ。今では毎日、世界中から訪れたファンがそぞろ歩きを楽しみながら、自分の足でビートルズの歴史をなぞるかのように写真を撮っています。単なる道路が、音楽史を体感できる名所に変わったのも、ビートルズの影響力の大きさゆえでしょう。
ビートルズの凄さをあなたの耳で確かめる
今回は、まず「ジョン、ポール、ジョージという世界クラスの作曲家が同じバンドにいた」という奇跡を掘り下げ、その上で10億枚超のセールスやチャート独占、セルフプロデュースやコンセプトアルバムの革新、さらには『Abbey Road』横断歩道の聖地化まで、ビートルズの多彩な功績を見てきました。どの視点も、ビートルズという存在が単なるヒットメーカーではなく、音楽のフォーマットも文化の潮流も根底から変えたことを示しています。
おすすめの入門曲&再聴ポイント
まずは「Hey Jude」をゆったりと最後まで聴いてみてください。ポールが聴き手に語りかけるように始まり、大団円のコーラスで聴く人を包み込む構成は、ビートルズならではの“みんなで音楽を楽しむ”喜びを体感できます。次に「Here Comes the Sun」では、ジョージの明るく軽やかなギターリフが心地よく響き、何度聴いても晴れやかな気分になれるはずです。もし時間があれば、「Strawberry Fields Forever」でジョンの詩的世界に浸りつつ、音の実験がもたらす無限の想像力を味わってみてください。
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もう少しビートルズを詳しく知りたい方は、歴史を押さえておきましょう。10分で分かるバージョンを用意しております。そして、忘れちゃいけない名曲ぞろいのシングルの歴史もあります。
手っ取り早くビートルズの最高傑作を知りたい方は、ロックの専門誌「ローリングストーン」誌が選出したオールタイムベストアルバムの記事を読んでください。ロックを含むポピュラー音楽史の中で評価の高いアルバムをランキング形式で紹介しています。
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