今回はビートルズのラブソングに焦点をあてて紹介します。ラブソングといってもAll You Need is LoveのようにLoveを抽象概念として用いている曲ではなく、いわゆる男女の惚れたはれたをテーマにしている曲です。
YesterdayやI Want to Hold Your Handに例を見るまでもなく、ビートルズは数多くラブソングを歌っています。これはビートルズだからってわけではなく、ポピュラー音楽の宿命みたいなものです。今もなお、世界中で惚れたはれたは歌われています。
今回は、ジョンレノンの後期のラブソングを紹介します。ビートルズいちラブソングが似合わない男がどんなものを歌っているのかをご紹介します。
ラブソングの対象が一般女性からオノヨーコへと変化
アルバム『The Beatles(通称:ホワイトアルバム)』から最後の『アビーロード』までの範囲でジョンのラブソングを探しました。後期も少ない…。
- Julia
- The Ballad of John and Yoko(ジョンとヨーコのバラード)
- Don't Let Me Down
- I Want You(She's So Heavy)
サクッと確認したところ、このあたりでしょうか。それにしても少ない。特徴的なのは、ラブソングの対象が具体的になっているところです。そうです。
オノヨーコ様です。
初期、中期のころまではいわゆる一般女性を対象にしたものがほとんどで、要するに誰に対して歌われているのか不明なものばかりでした。それが後期になると具体性を帯びてきます。それを踏まえ簡単にご紹介いたします。
Julia ジョンが母親に捧げた曲だけど途中でオノヨーコが出てきます
通称ホワイトアルバムに収録されている曲です。Juliaとはジョンが17歳の時に交通事故で亡くなった母親ジュリアのことです。
ただ、ビートルズおよびジョンレノンについて詳しくない人が聞けば、ジュリアは一般的に女性の名前でもあるので普遍性を持ったラブソングだとも言えます。
歌詞の途中でオノヨーコが登場するのですが、これはいったい何なのでしょうか。
Julia Julia Ocean Child, calls me So I sing a song of love, Julia
"Ocean Child"の部分です。Ocean=洋、Child=子で洋子(ヨーコ)です。オノヨーコの影響で日本の漢字を知ったジョンが遊び心で作ったのだと思いますが、母ジュリアだけでなくヨーコに捧げるラブソングにも聞こえませんか?
The Ballad of John and Yoko 新婚旅行を歌ったビートルズの中では珍しい曲
1969年5月30日リリースの作品です。ジョンの前妻シンシアとの離婚が成立したのが1968年11月、ヨーコとの結婚が翌年1969年の3月なので、この曲がリリースされたころにはヨーコの存在は公になっていました。
対象は完全にオノヨーコオンリー。ラブソングと言っていいのかどうかわかりませんが、ヨーコへの愛をひしひしと感じますので、ラブソングでしょう。
前妻シンシアとの関係、オノヨーコとの関係にゆれる男ジョンレノン
(番外編)Happiness is a Warm GunとOh! Darling
シンシアとの離婚関係でゴタゴタがあったのか、このころのジョンはちょくちょくその点に触れています。ホワイトアルバム収録のジョンの曲Happiness is a Warm Gunにこんな歌詞がります。
A soap impression of his wife which he ate And donated to the National Trust
ナショナルトラストとは重要文化財を決める団体です。「古女房はナショナルトラストに寄付した」みたいなことを言っているんじゃないかなと。古女房はもちろんシンシアのことです。だとするとシンシアがかわいそうですね。そこまで言わなくても…。
そしてアルバム『アビーロード』収録のOh! Darlingにもそのゴタゴタの痕跡が見えます。Oh! Darlingはポールの作品なのですが、『アンソロジー3』では一部ジョンがヴォーカルをとっているバージョンを聞くことができます。
時期的にシンシアと離婚が成立した時期らしく、ジョンは「I'm Free~」と歌詞を変えて歌っています。離婚成立がよほど嬉しかったのでしょう。
Don’t Let Me DownとI Want You(She’s So Heavy)
後期のジョンのラブソングで普遍的な歌詞になっているのが、Don’t Let Me DownとI Want You(She’s So Heavy)です。でも、オノヨーコのことを歌っているのは明らかですよね。当時のファンもだいたいわかっていたでしょう。
2曲に共通しているのは、一方的に愛を要求している点です。その点からも当時のジョンは、オノヨーコに夢中だったことがよくわかります。その思いをシンプルな歌詞にして歌い上げています。特にI Want You(She’s So Heavy)は、ほぼ同じ歌詞の繰り返し。I want youを連発しています。でも、そこがグルーヴ感を出しています。
ビートルズを私的に利用した結果うまれた名曲
あらためて後期のジョンレノンのラブソングを聞きなおしました。やはりこの時期のジョンの付近には、オノヨーコの存在感が大きくあり、普遍的な歌詞のラブソングであってもヨーコの顔を思い浮かべてしまいます。
特定の女性に向けて歌を書くのは、いわばビートルズの私的利用なわけなのですが、そこはビートルズです、サウンド面で聞かせてくれます。特にI Want You(She’s So Heavy)のグルーヴ感なんて最高です。あの歌詞あってのサウンドだと思います。名曲です。
後期、ラブソングの対象がオノヨーコに限定されたからこそ、ここで紹介した名曲が生まれたと考えることもできます。
そうなると…、「オノヨーコさん、ありがとう!長生きしてね。」と思えます。ただ、対象の変化を肯定的に捉えられるのは我々がビートルズ後追い世代だからだと思います。リアルタイム世代の方々にとっては、また違う意見があるのかもしれません。ぜひ、聞いてみたい。
世代を超えて、いろいろな議論ができるのも、ビートルズの偉大なところですよね。
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