人類の宝とも言えるビートルズ(The Beatles)の楽曲。クオリティの問題か、好みの問題か…、制作の過程でビートルズ(もしくはプロデューサー:ジョージマーティン)の手によってボツにされたバージョンがいくつか存在ます。ファンとしては気になるところです。
長く、それら気になるアウトテイクは海賊版以外では聞けませんでしたが、今現在はアンソロジーシリーズのリリースをはじめ、最近の50周年記念盤のリリースにより、一部聞くことができるようになりました。
今回は、垂涎のアウトテイクに焦点をあて、個人的に気になる5曲を紹介いたします。正式リリース版も良いですが、アウトテイクには別の良さがどっさりとあります。それを少しでも伝えられればと思います。
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それではさっそく。
正式リリース版よりもテンポが速い! While My Guitar Gently Weeps(Esher Demo)
1曲目は、ジョージハリスン作の While My Guitar Gently Weeps の Esher デモです。Esher というのは、イギリスのサリー州にある町の名前で、1968年当時、ジョージハリスンが自宅を構えていました。その自宅で録音された音源なので、Esher デモ と呼ばれているんですね。
インドから帰国したばかりのビートルズのメンバーがそのジョージ宅に集まり、後にホワイトアルバム(『The Beatles』)に収録されることとなる楽曲をアコースティックギターで演奏しています。デモ音源なのでボツ作品とはニュアンスが違いますが、ものすごくおすすめなので取り上げます!
この Esher デモには、ポールマッカートニーのBack In The U.S.S.R. もありますし、ジョンレノンのI’m So Tired なんかもあります。他にもまだまだたくさんあって、お宝ザクザクの状態。その中でもひときわ輝いているのが While My Guitar Gently Weeps です。
アコースティックギターによるラフな演奏なのですが、曲の持つ美しさは隠し切れないほどに、ほとばしっています。正式リリース版よりもテンポが速いのが特徴。レコーディングを重ねるにつれ、テンポを落としていったんでしょうね。正式版も良いですが、Esher デモ版も非常にGoodです。
ちなみに『Beatles Anthology 3』でもこの曲のアコースティックなアウトテイクは聞けますが、私は断然Esher デモ版のほうが好きです。騙されたと思って一度聞いてみてください。Esher デモは、ホワイトアルバムのデラックスエディションで聞くことができます。While My Guitar Gently Weeps以外のデモ楽曲も最高!これ、お宝ですよ。
正式版にはないハーモニーが炸裂! I’m So Tired
2曲目もホワイトアルバムのアウトテイクから。I’m So Tired の Esher デモもいいんですが、ここで紹介するのは、デラックスエディションで聞くことがでるテイク 14です。正式リリース版に採用されたのもテイク14なので、基本的にはあまり変わりないのですが、エフぶんのいちゆらぎほどに違うんです。
何が違うのかというと、正式版ではカットされたジョン、ポール、ジョージによるハーモニーが聞けるところです。一部ギターもカットされているのですが、やはり注目したいのは、ビートルズが得意とするハーモニーです。
カットされた理由は分かりませんが、カットしないほうが良かったんじゃないかと個人的には思います。うーん、なぜでしょうね。完全に想像ですが、ハーモニーを入れるとちょっと元気な感じに聞こえるからでしょうか。曲名が I’m So Tired なだけに、それを避けた!?のかもしれません。違うと思うけど。
ともあれ一聴の価値あり。ぜひ聞いてみてください。ちなみに、この曲の作者のジョンは何にそんなに疲れていたのでしょうか。疲労の理由について、1980年のインタビューでジョンは答えています。
瞑想しすぎた…。
合体する前のTake26 Strawberry Fields Forever
3曲目は中期ビートルズの最高傑作と言われるStrawberry Fields Foreverです。膨大な時間をかけて制作されたこの楽曲には、様々なアウトテイクが存在します。最終的にTake 7とTake 26をミラクル的に合体させて出来上がったものが正式版としてリリースされています。
テンポもキーも違うTake 7とTake 26を、ジョージマーティンがどうやってつなげたかについては、いろんなところで語られていますので、今回は割愛します。ジョンの「君ならできる」の一言で、どうやらできあがったようです。
ここで紹介したいのは、合体前のTake 26です。テンポもキーも違うという評判にたがわず、Take 26はかなりテンポが速い仕上がりとなっています。加えて、Strawberry Fields Foreverと言えば、イントロのメロトロンが印象的ですが、Take 26はそのメロトロン感が一切ありません。あるのは、大音量のストリングスと激しいパーカッション、そして逆回転ハイハットです。
歌詞もサウンドも幻想的な正式版とはかなり印象が異なります。ただ、すごく良いんですね。聞きなれていない非日常のStrawberry Fields Forever を聞くのもまた人生の楽しみのひとつです。ちなみにポールとジョージがハーモニーを加えているTake 1 もかなりおすすめです。
今回紹介したTake 26 は『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band スーパーデラックスエディション』で聞くことができます。Take 1 、Take 7 も収録されていますので、興味のある方はぜひ聞いてみてください。
UK 最初期プレス Tomorrow never knows
4曲目は通称マトリックス1と呼ばれるものです。要は、Tomorrow never knows の別バージョンですね。『Beatles Anthology 2』に収録されているTake 1 のものも有名ですが、ここで紹介するのはちょっと違うやつです。イギリスで1日だけプレスされたアルバム『Revolver』に収録されている作品です。
気になるのは、なぜ1日だけプレスされたの?ってところ。
これはジョージマーティンの指示によるもの。Tomorrow never knowsにノイズが入っているか何かの理由で、別バージョンへの差し替え指令が飛んだのですが、既に工場でレコードはプレス済み。その時点でプレス済みのアルバムは破棄されずそのまま出荷されたというのがことの経緯らしいです。
破棄されず出荷されたアルバムに収録されていたのが、今回紹介するTomorrow never knows のマトリックス1です。我々がよく耳にする正式版とは違うところが多数あり、マニアにとってはたまらない代物。噂だと、90年代くらいにこのマトリックス1の存在が発見され、『Revolver』のUK 1stプレスのレコード価格が急騰したとか。
主な違いはこちら。
- イントロ部分でタンバリンが聞こえない
- 間奏のギターソロがちょっと違う
- エンディングのピアノの音がやや長く聞こえる
- 全体的にSEが分厚い
特に、SEの分厚さに大きな違いが聞き取れます。私はこのバージョンのほうがハードな感じがして好きです。ちなみにこのTomorrow never knows はモノラルとステレオでも違いがあります。ぜひ聞き比べてみてください。マトリックス 1はステレオバージョンを派手にした感じでしょうか。
このマトリックス 1 は、エターナル・グルーブズが出している『REVOLVER Sessions』で聞くことができます。ぜひ聞いてみてください。Tomorrow never knowsの他にも魅力的な音源が収録されていますよ。
インストゥルメンタルだけでも素敵な Penny Lane
ラストに紹介するのは、少々変わり種。ボツ作品ではないのですが、Penny Laneのインストゥルメンタルです。Penny Laneといえばポールマッカートニーの中期の代表作のひとつ。ジョンのStrawberry Fields Foreverと両A面シングルでリリースされたこの作品は、圧倒的にうららかです。底から湧き上がってくる陽気さがあります。
いろいろと聞いておりますと、Eleanor RigbyやSomethingなど、たまーにインストゥルメンタルバージョンに出くわしますが、このPenny LaneのTake 6のインストゥルメンタルもいいですよ。聞きごたえ十分です。
Penny LaneのTake 6を選んだのは、インストだけ聞いて、不覚にも何の曲かすぐにわからなかったからです。あれ、良い曲だな、どこかで聞いたことあるな…と。じっくり聞けば分かるのですが、なんか悔しい感じです。Penny Laneのバックの音ってこんな感じなのね、と思った記憶があります。
Penny LaneのTake 6のインストゥルメンタルは、『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band スーパーデラックスエディション』で聞くことができます。機会があればぜひ一度聞いてみてください。損はしないはず、いや、得するはずです。
世に出ていなかったビートルズ作品もしびれるほどに名曲だった!
今回、正式に世にでなかったアウトテイクをまとめてみました。ここで紹介したのはこの5曲。アウトテイクじゃないものも含まれますが、まあ、ご愛嬌ということで。
- While My Guitar Gently Weeps(Esher Demo)
- I’m So Tired(Take 14)
- Strawberry Fields Forever(Take 26)
- Tomorrow never knows(Matrix 1)
- Penny Lane(instrumental)
どれもこれもおすすめのバージョンばかりです。それにしてもEsher Demoです。Esher にあるジョージ宅にビートルズのメンバー4人が集結したのが1968年5月のことだそう。そこで仲良くアコースティックギターをかき鳴らしていたんですね。
このホワイトアルバム制作時期から徐々にビートルズは解散へ向け歩んでいくのですが、イーシャーでもが制作された時点では、まだ仲睦まじい4人だったのかもしれませんね。そう考えると、このイーシャーデモって貴重です。
以上、
ビートルズがボツにした作品【おすすめアウトテイク厳選5曲】
でした。おしまい!
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もう少しビートルズを詳しく知りたい方は、歴史を押さえておきましょう。10分で分かるバージョンを用意しております。そして、忘れちゃいけない名曲ぞろいのシングルの歴史もあります。
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