ビートルズと言えば、ジョン・レノンがリズムギター、ジョージ・ハリスンがリードギター、ポール・マッカートニーがベース、リンゴ・スターがドラムスという役割分担が一般的です。でも、担当楽器のしばりは、実はゆるやかで、ガチっと固定はされていなかったようです。特に、アルバム『ホワイト・アルバム』以降は、メンバーそれぞれの個性が際立つ楽曲が増え、実験的なアレンジが試されるようになり、メンバーは楽器の担当を柔軟に変えていました。ジョージ・ハリスンも例外ではなく、ロック、ポップ、サイケデリック、インド音楽など、様々な音楽ジャンルに挑戦する中で、意外な楽器に挑戦することで、楽曲に新たな魅力を加えていました。
「ビートルズのベースと言えば、ポール・マッカートニー」 そう思う方も多いでしょう。でも、楽曲の中には、ジョージがベースを演奏しているものもあります。ジョージのベースプレイは、ポールとはまた違った魅力を持っていました。今回は、ジョージがベースを弾いた意外な楽曲を5曲紹介します。
ジョージのベースプレイの魅力に迫るだけでなく、あわよくば、レコーディング・セッション中の出来事やエピソードを交えて、お話したいと思います。それではさっそく、この曲から。
She Said She Said (from『Revolver』)
ジョージがベースを弾いた有名な曲の一つが「She Said She Said」です。この曲でジョージがベースを担当することになったのは、セッション中にポールがスタジオを離れたためでした。アレンジや演奏に関する意見の食い違いが原因だったそうです。
「She Said She Said」は、ジョンがカリフォルニアのビバリーヒルズで、俳優ピーター・フォンダと一緒に過ごした夜から着想を得た楽曲です。フォンダが、幼い頃に死にかけた経験を語り、「死ぬことが何であるかを知っている」という発言を繰り返したことで、ジョンはピーンときたのでしょう。この奇妙な会話をもとに、ジョンは「She Said She Said」を作り上げました。
レコーディングセッションは、1966年6月に行われており、この曲のアレンジや演奏について議論が白熱したようで、我慢の限界に達したポールはセッションから離脱。その間隙をぬってジョージはベースを担当し、セッションを完了させたのだとか。
「She Said She Said」のベースラインは、曲の不穏でサイケデリックな雰囲気を補強する重要な要素です。ジョージのベースプレイは、メロディアスでありながらも、リズムセクションとしての役割をしっかりと果たしています。複雑なリズムパターンと滑らかな動きが特徴で、ジョンのヴォーカルとギターリフに絡むようなアレンジが施されています。
ポールのベーススタイルとはまた一味違っています。具体的にどうこういうほど知識をもちあわせていないのですが、ジョージの演奏にはシンプルさと即興的な魅力が感じられます。個人的には、楽曲のサイケデリックな雰囲気を引き立てる仕上がりとなっているのではないかと、そう思っています。
「Honey Pie」(from『The Beatles』)
「Honey Pie」は、ポールが作曲した楽曲の一つで、1930年代のジャズやヴォードヴィルのスタイルを取り入れたユーモアにたっぷりの作品です。いろんな楽曲が詰まっているホワイトアルバムの中でも、異彩を放つ作品であり、ポールの才能と懐の深さを感じられる楽曲です。ポールはピアノとボーカルに集中したかったのでしょうか、この曲では、珍しくジョージがベースを演奏しています。ちなみに、リードギターはジョンが演奏しています。
「Honey Pie」は、ポールが子供の頃に聞いていた音楽の影響を受けているのではないかと、私はニラんでいます。彼の父、ジムが好んだ1930年代のスウィングやジャズの影響が感じられます。この曲のレトロな雰囲気は、ヴォードヴィルやキャバレー音楽の要素を意図的に取り入れた結果生まれたもの。実にいい味を出しています。
録音は1968年10月に行われ、ポールがピアノとボーカルを担当。ジョージ・マーティンがアレンジしたジャズ風のホーンセクションが曲に彩りを加えています。このセッションで、どういうわけか、ジョージがベースを担当しています。ポールはアレンジなどで忙しかったのでしょうか?ともあれ、曲はジョージのベースで完成します。
ジョージのベースプレイは、曲調に合わせて、ちょっと控えめですね。それがまた効果的。ウォーキングベースのスタイルを基調としながら、楽曲のリズムとハーモニーを支える好演奏です。このベースのアプローチとポールがピアノで奏でるコードが、この曲をジャズにしています。
また、リズムセクションとの連携は見事であり、リンゴスターの軽快なドラムパターンとの相互作用が楽曲の流れを滑らかにしており、そこにジョンの見事なリードギターが加わります。これにより、「Honey Pie」は、ポールが目指したヴィンテージな音楽スタイルを再現した曲として完成!ビートルズのチームワークが垣間見れる作品です。
「Old Brown Shoe」(シングルB面)
「Old Brown Shoe」は、ジョージが作曲した作品で、シングル「The Ballad of John and Yoko」のB面に収録されました。こう言ってはなんですが、ビートルズの楽曲の中では、比較的見逃されがちな作品なのですが、その音楽的な価値は非常に高いそうです。この曲では、ジョージがリードギターとベースの両方を担当しています。
ジョージはピアノを使いながらコード進行を探り、そこからこの「Old Brown Shoe」の骨組みを作り上げました。歌詞のテーマは、二重性や対比。「右と左」「上と下」「暗闇と光」といった概念を並列させることで、人間の感情や経験の複雑さを表現しています。哲学者ジョージの精神的探究が見られる作品です。
レコーディングは1969年2月と4月に行われ、一説によると、ジョージはこの楽曲のサウンドに強いこだわりを持っていたそうです。ジョージがリードギターのみならず、ベースも担当した理由は、この点にあるのかもしれません。自分自身の演奏で、正確に自分のアイデアを楽曲に反映させたかったんだと思います。その結果、あのエッジの効いたベースラインができあがっています。
ビートルズのレコーディング・エンジニアだったクリス・トーマスは、このセッションを振り返り、かく語っています。「ジョージはベースラインを練り上げ、楽曲の全体像をしっかりとイメージしていた」。
そんな「Old Brown Shoe」のベースラインは、曲のエネルギーとスウィング感を支える重要な要素となっていますジョージのベース演奏は、リズムにアクセントをつけるシンコペーションや半音階の動きを多用し、曲全体に生き生きとした動きを加えています。特にAメロからサビに移る部分では、メロディを支えながらも個性的なフレーズで強い印象を残しています。
さらに、ベースはギターやドラムと巧みに絡み合い、リズムセクションを超えて曲のハーモニーにも貢献しています。ジョージはこの曲で、リードギターも担当し、印象的なリフやソロで楽曲を彩っています。「Old Brown Shoe」は、ジョージの多彩な演奏力を存分に味わえる一曲なのです。
「Golden Slumbers/Carry That Weight」(from『Abbey Road』)
続いては、この2曲。合わせて紹介いたします。アルバム、『Abbey Road』のメドレーを構成する「Golden Slumbers」と「Carry That Weight」では、ジョージがベースパートの一部を担当しています。担当した理由は、よくわかりませんが、この時期ビートルズの楽器の役割は、かなり流動的であることが分かります。これにより常に新鮮なサウンドを生み出せていたのかもしれません。
「Golden Slumbers」や「Carry That Weight」を含む、あの『Abbey Road』の壮大なメドレーは、解散を意識しながらも、メンバー全員が力を尽くして完成させた作品と言えます。このメドレーの構想は主にポールが練り上げたものですが、制作過程では、各メンバーが互いを支え合うことで、見事なハーモニーを生み出しています。このメドレーは、ビートルズとしての集大成的な意味合いも強く、メンバー個々の技量とチームワークが見事に融合した結果といえます。
ジョージのベースラインは、メドレーの中で楽曲の感情の起伏を支える重要な役割を果たしています。「Golden Slumbers」では、ピアノの旋律と調和しつつ、シンプルかつ力強いラインで、曲の穏やかな雰囲気をしっかりと、引き立てています。もう一方の「Carry That Weight」は、合唱部分でベースラインが他の楽器やコーラスをしっかり支え、曲全体に厚みと壮大さを加えています。ベースラインが土台となることで、楽曲の迫力やスケール感が見事に引き立てられています。ジョージの見事なアプローチです。
まとめ:シンプルながらの楽曲に寄り添うベース
ジョージが演奏するベースの特徴は、シンプルながらも楽曲に寄り添ったアプローチにあります。ポールの華やかで技巧的なベースラインとはちょっぴり違ったセンスとでもいいましょうか、ジョージの演奏は控えめながらも即興性を感じさせ、楽曲全体の雰囲気を引き立てています。
「She Said She Said」では、サイケデリックで印象的なフレーズを展開し、「Honey Pie」では、レトロなジャズ調を支える控えめなウォーキングベースを演奏。「Old Brown Shoe」では、シンコペーションを活かしながらエネルギッシュなラインで楽曲にダイナミズムを加えています。ジョージの演奏は楽曲全体との調和を重視し、リズムやハーモニーの中で目立たずとも確実に支える役割を果たしています。
ジョージがベースを弾いた楽曲を振り返ると、彼が単なるギタリストではなく、バンドのサウンドに多角的に貢献していたことがわかります。ポールとは異なるアプローチながらも、ビートルズの楽曲に深みを与え、全体の音楽性を豊かにしたジョージのベースプレイ。その存在は、ビートルズの音楽の多層性と創造性を語るうえで欠かせない要素だと言えますね。
以上、ジョージハリスンがベースマン!ジョージがベースを奏でたビートルズの5曲」でした。おしまい。
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