ビートルズの楽曲は213曲あります。好奇心旺盛なビートルズはその楽曲をいろんな方法でレコーディングしてるんですね。例えば、新しい楽器を使ったり、テープを逆回転させたり、サウンドエフェクトを用いたり…。
レコーディングの手法の面でも前人未到を切り開いているのがビートルズのスゴイところ。今回は、そんな彼らが駆使したレコーディング方法に焦点をあて、ちょっと変わった方法で生み出されたビートルズの名曲を厳選して4曲ほど紹介、そして番外編として1曲紹介いたします。
YouTubeもやっています。ぜひ見てください!
それではさっそく、この曲から。
テープの逆回転をさらに発展 I'm Only Sleeping
ビートルズと言えば「逆回転」。「逆回転」と言えばビートルズです。レコーディングしたテープを逆に回して再生することで得られる不思議な音色をビートルズは効果的に使っています。代表的なのは、Rain や Tomorrow Never Knows といった楽曲でしょうか。
ただ、今回紹介する I'm Only Sleeping は、数ある逆回転楽曲の中でも、ちょっと違います。あえて言うなら、進化系逆回転楽曲です。非常に手が込んでいるんですね。
Rain や Tomorrow Never Knows で実施された手法は、録音したテープを単純に逆回転させることで不思議なサウンドを得ていましたが、 I'm Only Sleeping は違います。はじめから逆回転用にギターリフを作っています。どういうことかというと…、
まず通常のギターリフを作り、それを譜面におこします。その譜面を逆から演奏して録音、さらにそれを逆回転させることで、あの何とも言えないギターのサウンドを生み出しているんです。逆回転へのこだわりが違います。
なんでも、オーバーダビングに6時間もの時間が費やされたとか。「眠いぜ、だるいぜ」といった内容の歌詞とはウラハラにかなり根気を必要とする作業がほどこされていたんですね。
なんだかんだ言ってもビートルズとそのチームはやっぱり働き者なのです。このギターの演奏者はジョージハリスン。作者のジョンレノンもこの逆回転の音色について「夢見心地だね」と称賛。ジョンお墨付きの作品です。
ちなみに、 逆回転ギターが入っていたり、いなかったり、長かったり短かったりと、このI'm Only Sleeping にはいろんなバージョンが存在します。現在公式リリースされているステレオとモノラルでも大きな違いが確認できますので、興味のある方は、確認してみてください。
テープをバラバラに裁断!? Being For The Benefit Of Mr. Kite!
2曲目はアルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』からサーカス感たっぷりのMr.Kiteです。この曲もレコーディングしたテープに一味加えて完成させた作品。といっても逆回転を極めた I'm Only Sleeping のように作られたのですはなく、もっとビートルズっぽい方法で作られています。
意図して偶然を狙った曲なんです。
意図して偶然?なんのこっちゃと思われたかもしれませんが、私にはそうとしか思えないんです。制作にあたってまず、作者ジョンレノンは「おがくずの匂いのする音が欲しい」という謎の要求をプロデューサーのジョージマーティンにしています。
おがくずの匂いのする音?
ジョージマーティンが悩んだのは想像に難くありません。ただ、ジョンの要求です。答えないわけにはいかない。そこに応えるべくあみ出された方法が、録音テープをバラバラに裁断するという方法でした。
- パイプオルガンの演奏が録音されているテープをハサミで裁断
- 細かくなったテープをそこら中にばらまく
- ばらまいたテープを拾い集め
- そのテープをランダムにつなぎ合わせる
- できあがり!
という流れです。ここで作られた音はエンディング部分に使用されています。よーく聞いてみると、ランダムに繋がれたのが分かります。『The Beatles Anthology 2』に収録されているTake 7 を聞くほうがよくわかるかな。すごくサイケデリックなサウンドに仕上がっています。
I'm Only Sleeping といい、この曲といい、1966年から1967年のころ、アルバムだと『Revolver』から『サージェント』あたりのビートルズは非常に実験的です。意図して、偶然を引き起こして、それを効果的に利用するという離れ業をやってのけています。すごいですね!ということで、Being For The Benefit Of Mr. Kite!でした。次もアルバム『Revolver』からこの曲です。
サウンドエフェクトは得意技 Yellow Submarine
3曲目はリンゴスターのボーカルの曲、今なお多くの人々に愛され続けているYellow Submarineです。ほがらかで、わんぱくキッズ向けの楽曲であるがゆえに見逃されがちですが、この曲に使われているサウンド・エフェクトはとってもオモシロイ。
おそらく、ビートルズの楽曲でSEが使われたのは、Yellow Submarineが初かな。ちがったらすみません。とにかくこの曲の効果的なSEは聞き逃せません。使われているSEは、すべて実際のものを使って作られています。
例えば、間奏のブクブクは、水の入ったコップにストローで息を吹くことで作られており、ざわーという音は水の入った容器の中で鎖をかき回して作ったりしています。オモシロいのは、間奏部分の声。あのこもった感じの声は、レコーディングルームの外から大声で叫ぶことであの感じを出しているそうです。
SEの使用はビートルズの得意とするところですが、実際のものを使って音を作り出しているのは、多くありません。この曲と、Maxwell's Silver HammerとOctopus's Gardenくらいなもの。他の楽曲は、スタジオのライブラリー音源を使っています。
3曲の中でもサウンド・エフェクトと言えば、やっぱりYellow Submarineですね。
ちなみにYellow Submarineのイントロ部分は「語り」が入ることが予定されていました。その部分、ジョンによって作られレコーディングもされていますが、結局カットされています。じゃあ、聞くことはできないのかというとそうではなく、アンソロジープロジェクトでシングルカットされたReal Loveに収録されていますので、ぜひ聞いてみてください。
ワールドミュージックの先駆け ノルウェイの森
4曲目はアルバム『Rubber Soul』収録のジョンの名作です。ポピュラー・ミュージックで初めてシタールが導入されたノルウェイの森です。シタールとはインドの民族楽器で、その音色は、個人の感想ですが、まさしくインドです。
この曲でシタールを演奏しているのはジョージハリスンです。なにぶん初めての導入なので、演奏は部分的なものですが、それでもいい味をだしているんです。ジョンがこの曲の雰囲気にぴったりだといったのもうなずけます。
オモシロいのは、ジョージとシタールの出会い方です。
出会いは、1965年のビートルズ主演映画『Help!』の撮影時。映画の小道具の中に、シタールが混ざっていたんですね。そこでジョージがシタールを手に取ってしまったことがすべての始まり。最初にノルウェイの森で実験的に使われたのを皮切りに、アルバム『Revolver』、『サージェントペパーズ』で本格導入されるようになります。
ちなみにジョージがハマったのは、インド楽器だけではありません。その精神性にもドはまりしています。インド感あふれるWithin You Without Youという楽曲では、「悟りを得ようとする気持ち」を歌詞に込めたと語っています。いよいよスピリチュアルになってきました。
ともあれ、シタールです。民族楽器をロックに導入するという点は、発想からして奇想天外であり、前人未到の振る舞いですね。
番外編 寝転んで歌った!? Revolution 1
最後の1曲は番外編です。番外編にした理由は正式版に採用されたのかどうか不明だから。たぶん採用されていないと思うので番外編にしました。この曲、Revolution 1 では非常に変わった歌入れがこころみられたようです。それはどんな方法でしょうか?
スタジオに寝転んで歌うというものです。
作者のジョンは、自分の声の質を変えるべく、こうした方法が試されたそうです。今、私たちが聞くことができるRevolution 1 のボーカルが寝そべり録音のものかどうかは不明なのですが、こうしたトライ&エラーの積み重ねがあっての名曲なんですね。
ここで考えたいのは、なぜジョンは声質を変えたかったのかという問題です。曲調に合わせるためというのも考えられますが、私的には「ジョンレノン、自分の声、嫌い説」を支持したいです。そう思う理由は…
- ジョンレノン作にハモリ楽曲が多いこと
- ボーカルを二重に録音している作品率が高い
- 再生スピードを変え声を変化させている作品が多いこと
こんなふうに、いろいろと声を変えようとしています。他にも、ジョンの頭のうしろにマイクをセットしてボーカルを録音したこともあったとか。普通の声でも十分カッコイイ、いやカッコよすぎるのに、なぜ?という感じですね。
ということで、Revolution 1 でした。ちなみにこの曲の完成までのプロセスもかなり面白いので、興味のある方は確認してみてください!
実験をスタンダードにしてしまうビートルズ!
今回、ちょっと変わった方法でレコーディングされたビートルズの楽曲を紹介してきました。こちらの4曲と番外編1曲です。
- I'm Only Sleeping
- Being For The Benefit Of Mr. Kite!
- Yellow Submarine
- ノルウェイの森
- Revolution 1
今では、ある意味レコーディング方法として、そしてロックの歴史としてスタンダードな内容となっていますが、1960年代当時は驚きの方法だったんじゃないかと思います。奇想天外な発想をするビートルズもすごいけど、それを実現させてきたエンジニアもスゴイと思います。
もちろん、ビートルズが仕掛けた実験にも失敗は多くあったともいます。その失敗の上に、いまの名曲があるわけです。いやー、勉強になります。
ということで、以上、「奇想天外な方法でレコーディングれたビートルズの名曲 5選」でした。おしまい!
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もう少しビートルズを詳しく知りたい方は、歴史を押さえておきましょう。10分で分かるバージョンを用意しております。そして、忘れちゃいけない名曲ぞろいのシングルの歴史もあります。
手っ取り早くビートルズの最高傑作を知りたい方は、ロックの専門誌「ローリングストーン」誌が選出したオールタイムベストアルバムの記事を読んでください。ロックを含むポピュラー音楽史の中で評価の高いアルバムをランキング形式で紹介しています。
歴史上最も評価の高いアルバムランキングを紹介!ビートルズの作品は何位?
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