西暦2000年-2009年の10年間で、最もアメリカで売れたアルバムをご存知でしょうか。我らがビートルズのベストアルバム『ビートルズ 1』だそうです(ニールセン・サウンドスキャン社集計)。現役のミュージシャンを抑えての堂々1位です。
不思議だと思いませんか?
ビートルズは1970年に解散していますが、その人気はいまだ衰えていないのです。しかも昔からのファンだけでなく、10代20代の新しいファンからも支持を得ています。ビートルズの時代を超えて聞き継がれていく魅力はいったいどこにあるのでしょうか。
中期の名曲 All You Need Is Love にそのヒントが隠されていると思っています。この記事では、 All You Need Is Love を通してビートルズの普遍的魅力を考えてみます。
価値観の相対化を体現してみせてくれたビートルズ
ビートルズの人気の秘密をライフワーク的に考えてきました。音楽を聞き、映像を見て、関連書籍を読みあさって考えたところ、
- 価値観の相対化
- 新しい価値観の提唱
どうやら、このあたりに理由があるんじゃないかと思うようになりました。ビートルズが現役として活動していたのは1960年代です。60年代という時代は古い価値観がくずれた時代と言われています。従来の「こうすべきもの」と考えられていたところに疑問符をつけ、「そうじゃなくてもいいんじゃないか」と考え始めた時代です。学生運動の盛り上がりだけでなく、ウーマンリブや環境問題が提起されはじめたのも60年代だったはずです。
「従来の価値観を否定した時代」という表現がなされる場合が多いのですが、ビートルズをみているとそうではないような気がします。ビートルズは、怒れる若者ではなく、ちゃんとしたスーツを着てニコニコして登場してきました。従来の価値観を否定なんてしていません。ビートルズがこの時代に何をしたかというと、価値観を相対化させたのではないかと思うのです。
- ロックンロールバンドとしてロイヤルバラエティショーへの出演
- 大英帝国彰勲章MBEの叙勲
ともに絶対的権威の象徴である英国王室がらみのイベントです。当時の感覚だとわけのわからない若者(=ビートルズ)が出演したり叙勲したりしているわけです。「本当に価値あるものなのか?」とロイヤルバラエティショーやMBEそのものの価値が疑われることになったのだと思います。これらは英国王室の権威の失墜として世間に映ったはずです。他にも
- 人を食ったようなインタビューの受け答え
- ジョンレノンのキリスト教に対する発言
など、痛快とでも言いましょうか、「こういうのもありなんだ」というのを示す存在としてビートルズがいたのではないかと思います。難しく言うと価値観の相対化です。余談ですが、インタビューのやりとりで一番好きなのが、
記者「アメリカで一番嫌いなものは何ですか?」 ジョン「お前だよ!」
ジョンレノン最高!こんなの他人に言えますか?
ビートルズが示した新しい価値観としての LOVE
ビートルズは古い価値観を相対化しただけではありません。しっかりと新しい価値観を示しました。それがLOVEだったのではないかと思います。日本語でいうと愛です。それが1960年代当時の人々から共感を得、爆発的な人気を獲得したのだと思います。All You Need Is Love が世界的なイベント『アワ・ワールド』(世界24ヵ国同時放送)で演奏され大ヒットを記録したのも、人々がLOVEを求めていたからではないでしょうか。
そして解散後なおビートルズが人気である理由も同じく。今なお世界中の人々は”LOVE”を求めているからではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
- LOVE LOVE暑苦しくねえか?
- 他のミュージシャンもLOVE LOVEいってねえか?
- ビートルズ的LOVEってどんなもの?
という疑問がでてきましたよね?
ビートルズ的LOVEとはどんなものだったのか?
ビートルズが示した新しい価値観のLOVEとはどんなものだったのでしょうか。LOVEを連発するビートルズの名曲 All You Need Is Love の歌詞にヒントがありそうです。『ラバーソウルの弾みかた』(佐藤良明 2004)という本に歌詞の分析が載っています。
There's nothing you can do that can't be done (1番の歌詞) * There's nothing you can know that isn't known(2番の歌詞)
All You Need Is Love の1番と2番の歌いだしの歌詞です。構成は同じなのですが、1番は"can't"が使われており、2番は "isn't"が使われているのが分かるでしょうか。この違いは大きく、著者によると後に続く歌詞 "All You Need Is Love" の意味が異なるものになります。意訳すると、
"can't"が使われている1番:「愛があるから大丈夫!頑張れる!」 "isn't"が使われている2番:「愛があるからまあいいいか・・・」
Love(=愛)というものの捉え方に大きな差がでています。温度感がぜんぜん違います。どう受け取るかはお前次第だと言われているようです。isn'tのほうの解釈だと、暑苦しくもないですし、他のミュージシャンの唱えるLOVEとも少し違います。
ビートルズがすごいのは自分で示したLOVEという価値観でさえ相対化してしまっているところです。もしかしたら「お前次第」という点が新しい価値観なのだよと教えてくれているのかもしれません。
よく考えてみればこのAll You Need Is Loveという曲自体、パロディの連発です。まず、イントロにはフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が演奏され、エンディングでクラッシックやジャズ、民謡が演奏され、挙句のはてにShe Loves Youまで演奏されます。ちゃかしにちゃかして本気なのか冗談なのか。まあ、これも自分で判断しろということでしょうか。
ビートルズ的LOVEは絶対的なものではない
そう考えると、「愛こそはすべて」なる邦題は間違いではないかと思います。というところで落ちをつけたいと思います。ビートルズは深い!
映画『アクロスザユニバース』にもビートルズの人気の秘密をさぐるヒントがありますので、興味ある方は下の記事も参考にしてみてください。
参考文献 『ラバーソウルの弾みかた ビートルズと60年代文化のゆくえ』(佐藤良明 2004 平凡社ライブラリー) 『ビートルズ現象』(中野収 1978 カプセル叢書)
コメント