ビートルズの「ゲット・バック・セッション」は、長い間ファンや音楽評論家にとって議論の的となってきました。なんとなく闇が深そうな感じがしてたんですよね。1970年の映画『Let It Be』が公開された際には、セッションの雰囲気は暗く重いものとして描かれ、ビートルズ解散を予感させる象徴的な出来事として認識されていました。
しかし、2021年に公開された『ザ・ビートルズ: Get Back』は、膨大な未公開映像を用いてセッションを新たな視点で再構築し、ビートルズの創造性やメンバー同士の絆を描き出しています。
あれ?こんな感じだったの?
シン・ゲットバックをきっかけに、私の中でこのセッションへの再評価が進みました。これは、単なる解散劇ではなく、ビートルズの音楽に対する情熱や人間関係が再確認された時期として位置づけられるべきなんじゃないか!なんて熱いことも思っています。
ここでは、『Let It Be』と『ザ・ビートルズ: Get Back』の比較を軸に、両作品がどのようにビートルズの「ゲット・バック・セッション」を描いているのか、またその評価がどのように変化したのかを詳しく見ていきたいと思います。
『Let It Be』の評価と背景
1970年に公開された映画『Let It Be』は、ビートルズが解散に向かう過程を追ったドキュメンタリーとして位置付けられています。監督はマイケル・リンゼイ・ホッグ。「ゲット・バック・セッション」の数週間を収録していますが、編集された映像の中では、バンドの緊張感や対立が強調されています。
特に目立つのがポールマッカートニーが他のメンバーに指示を与える場面。それからジョージハリスンとの衝突が大きく取り上げられています(あの有名な場面です)。これらが、ファンや評論家の間で「ポールが独裁的になっていた」という評価が広まる一因となりました。
ポールマッカートニーのリーダーシップ
映画『Let It Be』の中で、ポールは頻繁にバンドメンバーに対して指示を与え、楽曲の方向性を決定する場面が目立ちます。この描写により、当時から「ポールがバンドをコントロールしすぎていた」という批判が起こったのかもしれません。
リーダーシップをとるポールの姿が否定的に捉えられ、また、強調され、そのイメージがこの映画の雰囲気をくらーいものにしていきました。特に「ジョージハリスンとの不仲」が、セッションの緊迫感を象徴する出来事として描かれ、ビートルズの解散理由のひとつとして広く議論されました。
ジョージハリスンの脱退危機
『Let It Be』の中で、ジョージハリスンが一時的にバンドを離れるシーンは、ビートルズの解散を暗示する重要なエピソードの一つとして捉えられています。
ジョージは、自分の意見や創作が他のメンバーによって無視されていると感じ、セッション中に一時的な脱退を決意します。この出来事は、ビートルズ内部の対立がどれほど深刻であったかを象徴する場面として語られてきました。
ルーフトップコンサート
映画のクライマックスとなるルーフトップコンサートは、ビートルズの最後のライブパフォーマンスとして描かれ、その悲壮感が強調されています。このコンサートが、ビートルズの終焉を象徴する出来事として描かれていることから、ファンにとってもこのセッションは「解散に向かうバンドの最期」として認識されていました。
『ザ・ビートルズ: Get Back』による新たな視点
2021年に公開された『ザ・ビートルズ: Get Back』は、ピーター・ジャクソン監督によって制作され、60時間に及ぶ未公開映像と150時間の未発表音源が再編集されました。この作品は、1970年の『Let It Be』とは大きく異なる視点からビートルズの「ゲット・バック・セッション」を描いており、従来のネガティブな評価を覆す内容となっています。
メンバー間の和気あいあいとした関係
『ザ・ビートルズ: Get Back』では、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴスターの4人が和やかな雰囲気で楽曲制作に取り組む様子が描かれています。旧作では強調されていた対立や緊張感があんまり見られず、むしろメンバー同士がジョークを飛ばし合いながらリハーサルを行う姿が多く収録されています。これは、従来の「解散に向かうバンド」というイメージを大きく覆すものとなりました。
余談ですが、『ザ・ビートルズ: Get Back』の前半あたり、ジョンの目がバッキバキに見えませんか?理由は、なんとなくわかりますが、よくわかりません。とにかくバキバキです。ちょっと怖いです。でも、メンバーが意外と普通に話していたりします。こんなところからもビートルズの関係性が窺えますね。
創造性に満ちたセッション
新作では、ビートルズの創作プロセスが詳細に描かれており、メンバーが協力して新しい楽曲を作り上げていく様子が収められています。特に『ドントレットミーダウン』や『ゲットバック』の制作過程が克明に記録されており、曲がどのように進化し、最終的な形になるかがわかりやすく描かれています。
どうやって曲を作っていたのかを知ることができて、こういうの嬉しいですよね。このような創造性に溢れたセッションの様子は、ビートルズが依然として音楽的に充実していたことを示しています。
ポールの役割の再評価
旧作で批判的に描かれていたポールのリーダーシップは、新作ではよりバランスの取れた形で描かれています。ポールがバンドをまとめ上げ、他のメンバーにアイデアを提案する姿は、単なる「独裁者」ではなく、ビートルズの音楽制作において重要な役割を果たしていたことが強調されています。また、彼が他のメンバーと積極的にコミュニケーションを取りながら進めている様子が(なかなかハードな口論もありますが)、ビートルズが解散に向かっていたという従来の評価を覆すものとなっています。
ジョージハリスンの一時的な離脱
『ザ・ビートルズ: Get Back』では、ジョージハリスンの一時的なバンド脱退が描かれていますが、旧作とは異なり、この出来事は一時的なものであり、メンバー間の対立が決定的なものではなかったことが示されています。
「代わりにエリッククラプトンでも入れるか」
ジョン特有の強がりジョークも飛び出していますが、意外とそんなに深刻じゃない感じです。ジョージがバンドに復帰するまでの過程や、彼と他のメンバーとの和解が描かれており、ビートルズが再び一つのチームとして機能していたことが明らかにされています。
ルーフトップコンサートの新たな解釈
解散前最後のパフォーマンスに込められた意味
『ザ・ビートルズ: Get Back』におけるルーフトップ・コンサートは、ビートルズの最後のパフォーマンスとして歴史に刻まれています。1970年公開の映画『Let It Be』では、このルーフトップ・コンサートがバンド解散の前兆として描かれ、悲壮感と切迫感が強調されてきました。解散前最後のライブという位置づけが強く、ファンや批評家にとっても、ビートルズの終焉を象徴するシーンとされていました。
新作におけるルーフトップコンサートの再解釈
一方で、2021年に公開された『ザ・ビートルズ: Get Back』では、同じルーフトップ・コンサートがまったく異なる視点で描かれています。新作では、ビートルズが楽しんでパフォーマンスを行っていた様子が描かれ、観客や通行人とのやりとりを楽しむ姿が印象的です。
特に、ジョンのユーモアやポールのパワフルな演奏がうなりをあげています。音楽に対する情熱が表現されていて、このパフォーマンス自体がもう圧倒的にカッコイイ!!ジョン、ポール、ジョージ、リンゴが最後まで情熱を持ってパフォーマンスをしている姿は、バンドの終焉ではなく、新たな可能性や音楽への情熱を示すものとされています。
影響を与えた音楽文化とその後のアーティストたち
ルーフトップ・コンサートのインパクトは、ビートルズが解散後も音楽シーンに影響を与え続けていることを物語っています。このパフォーマンスは、現代の多くのアーティストに影響を与え、特に屋外や非日常的な場所でのライブパフォーマンスが増加するきっかけとなりました。
今日でもルーフトップ・コンサートは、ライブ演奏の新たな形態として再評価され、ビートルズが音楽だけでなく、ライブパフォーマンスのスタイルにも革新をもたらしたことを象徴しています。
ビートルズの創造性と人間関係の再発見
映像から見える新たな創造プロセス
『ザ・ビートルズ: Get Back』は、ビートルズの創造的プロセスを再評価する機会を提供しています。旧作『Let It Be』では、メンバー間の緊張や対立が強調されており、特にポールとジョージの不和が目立って描かれていました。
しかし、新作では、メンバーが協力し合い、新しい楽曲を作り出す姿が詳細に描かれています。セッション中にジョンとポールが冗談を言い合いながらも真剣に曲作りに取り組む姿や、ジョージがギターのアレンジを提案する場面など、ビートルズの創造性が鮮やかに映し出されています。
ポールマッカートニーのリーダーシップと協力的なバンドの姿
これは個人的な見解ですが、ポール・マッカートニーのリーダーシップについても、独裁的というよりもプロジェクトリーダー的な感じに見て取れます。ゲットバックというプロジェクトを前進させるための調整役ですね。
ポールは、メンバー一人ひとりの意見を尊重しつつ、ちょっとジョージにはあたりがきついけれども、セッションを進行させる役割を担っています。コンポーザーとしての才能がぶつかり、口論になる場面もありますが、ポールがジョンやジョージと共同で楽曲を作り上げていく様子は楽しそうです。
ビートルズがバンドとして一体感を持ちながらも、それぞれのメンバーが個々の才能を発揮していたことがこの『ザ・ビートルズ: Get Back』でわかるようになりました。
創造性と人間関係が織りなすビートルズの魅力
『ザ・ビートルズ: Get Back』は、ビートルズの音楽的才能だけでなく、彼らの関係や人間的な側面を垣間見ることができます。特に、彼らの音楽に対する情熱や、メンバー同士の信頼関係がどれほど創造的なプロセスに影響を与えていたかが、詳細に描かれています。
ビートルズが一つのバンドとしてお互いを支え合いながら音楽を作り続けたこと。それは、いろんな書籍で読んで知ってはいることでしたが、改めて映像で見ると、なんか感動します。メンバー同士の協力関係が作品の深みや魅力を形成しているのは間違いないと思います。
このように、『ザ・ビートルズ: Get Back』は、ビートルズの創造性や友情を再発見させる作品となり、彼らがいかにして数々の名曲を生み出してきたのか、その背景にあった人間関係や絆を改めて見つめ直す機会を提供しています。
ビートルズの遺産と『Get Back』の影響
『ザ・ビートルズ: Get Back』は、ビートルズの音楽遺産に対する理解を深くし、彼らの創造的な過程や人間関係がどれほど音楽に影響を与えていたかを再確認させる作品です。特に、この映画は従来のネガティブな評価を覆し、ビートルズが解散を迎える直前の状況がより複雑で多面的であったことを示しています。これによって、ビートルズの歴史は単に「対立と解散」だけでなく、「創造的な再生と成長」という新たな解釈が加わることになりました。
音楽ファンと評論家への影響
『ザ・ビートルズ: Get Back』は、ファンや音楽評論家、そして私の間で大きな反響を呼びました。この作品によって、ビートルズの音楽的な価値だけでなく、彼らの人間関係や音楽制作のプロセスにも知ることができるようになりました。
特に若い世代のファンにとっては、ビートルズが単なる過去の偉大なバンドではなく、今なお影響を与え続けるアーティストとして感じられるようになったことが重要です。
未来の音楽への影響
ビートルズの創造性や革新性は、現代の音楽にも多大な影響を与え続けています。『ザ・ビートルズ: Get Back』は、その創造的な過程を具体的に示すことで、今後のアーティストにとっても重要なインスピレーション源となるでしょう。特に、バンドメンバーが協力し、試行錯誤を繰り返しながら音楽を作り上げていく姿は、現代のミュージシャンやクリエイターにとっても大いに参考になる部分です。
まとめ:ビートルズの「ゲット・バック・セッション」の新たな意義
『ザ・ビートルズ: Get Back』は、ビートルズの「ゲット・バック・セッション」を新たな視点から再評価し、彼らの創造性、人間関係、そして音楽への情熱を鮮やかに描き出しました。従来のネガティブなイメージを覆し、セッションは単なる解散への道程ではなく、彼らの音楽的な再生と絆の象徴として再認識されることになったのです。
この新たな視点によって、ビートルズは解散を迎えたバンドというだけでなく、最後まで音楽と向き合い、その創造力を発揮し続けた偉大なアーティストとしての姿が浮き彫りになりました。『ザ・ビートルズ: Get Back』は、ビートルズの音楽遺産をさらに深め、彼らの真の姿を後世に伝える重要な作品として、今後も多くのファンに愛され続けるはずです!
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