ロック史に燦然(さんぜん)と輝くビートルズ(The Beatles)の名作アルバム『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』。1967年にリリースされた8作目のオリジナルアルバムです。
名前が長いので日本では『サージェント』の名称で親しまれているこのアルバムですが、ポピュラー音楽の最高傑作と評価されている一方で、
過大評価されてね?
という評価もよく耳にします。とんでもないセールスを記録しているアルバムなので、いろんな人がいろんな評価をしていますが、私個人としてはポピュラー音楽の最高傑作で間違いないと思っています。
むしろ、過小評価されてるくらいだと思っています。
なぜ、このアルバムは過大評価と言われているのでしょうか?そのあたりに目配せしながら、全曲紹介をしたいと思います。まずは、このアルバムの評価から。
人類史上初のコンセプトアルバム
コンセプトアルバムってなんじゃらほい?
21世紀の今、なかなか想像が難しいのですが、ビートルズが活動していた1960年代当時は、シングル曲中心に市場が形成されていて、アルバムはおまけ、シングル曲の寄せ集め的な扱いでした。
シングル曲のほうが重要視されていた時代なんですね。
そうした状況を、荒々しくぶっ壊したのが『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』でした。1つのコンセプトを持ったこの作品をリリースすることにより、
アルバムは、シングル曲の寄せ集めでなく、1つのアート作品である。
ビートルズは、そう表明してみせたんです。カッコイイ!…じゃあ、『サージェント~』のコンセプトって何だろう??というのが気になりますね。
『サージェント』のコンセプトって何?
議論が分かれるところです。
このアルバムの制作過程で作られたのが、ジョンレノンのStrawberry Fields ForeverとポールマッカートニーのPenny Laneです。両曲ともに幼少期の思い出を歌った曲です。
当初、この2曲を筆頭に「幼少期」をコンセプトにしたアルバムが作られる予定だったのですが、大人の事情でこの2曲は両A面としてシングル化されてしまったため、アルバムにシングル曲は入れないポリシーを持つビートルズは、早々に「幼少期」コンセプトをやめてしまいます。
代わりに持ち上がった案が、「架空のバンドによるショウ」でした。
この架空のバンドが、サージェントペッパーズロンリーハーツクラブバンドです。この「架空のバンドによるショウ」という案が採用されたわけです。
エルヴィス・プレスリー先輩がキャディラックだけをツアーに出したということを耳にしたポールが「これはいい!」と思いついたのがこの案だったようです。
なぜ過大評価といわれているの?
私はなぜ過大評価だと言われているのか、よくわかりませんが、『サージェント』に対して、よくある批判を並べてみました。
- 一曲一曲のクオリティが少々低いんじゃない?
- 曲のクオリティなら前作『Revolver』のほうが高くね?
- コンセプトは貫かれてるの?
- 1曲目と2曲、それと12曲目のRepriseだけじゃないの?
- 結局 A Day in the Life しか聞かねー
こんなところでしょうか。『サージェント~』の評価あるあるですね。
中でもよく言われるのが、「コンセプトは貫かれているの?」でしょうか。最初の2曲とRepriseだけじゃね?みたいなことは、批判としてよく目にしたり耳にしたりします。
そんな、かたいこと言わなくても…
というのが私の本音です。「架空のバンドによるショウ」がコンセプトなんですから、そのバンドが何の曲を演奏してもいいような気がします。
例えば、「いとしのエリー」の次の曲が「マンピーのG☆SPOT」だったとしても、何の違和感なくサザンオールスターズです。それと同じです。
曲のクオリティに関しては、なんとなく分かります。でも、良い曲も入っているんですよ。といったところで、『サージェント』の全曲紹介です。
サイケデリック全開のアルバム
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
1曲目はこのアルバムのタイトルになっている曲です。Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band。このアルバムの主人公です。このアルバムは彼らのショウなのです。それがコンセプト。
まあ、そういう話を気にせず聞いても、良い曲ですね。
オープニングのザワザワ感とイントロのギターはいつ聞いてもワクワクします。作者であるポールマッカートニーのボーカルもハードでいい!途中、ジョンレノンの声のボリュームが大きくなり、ジョンとポールのどっちが歌っているのか分からなくなるのも、ビートルズの真骨頂。
そして、継ぎ目なく2曲目に突入するのも斬新です。今でこそ、たまにそういう演出がされている作品はありますが、当時としては画期的でした。だってシングル中心の時代でしたからね。
With a Little Help from My Friends
前の曲で紹介された通り、リンゴスター扮するビリーシアーズという架空の歌手が歌っている曲です。作者はポールです。Yellow Submarineタッグですね。
当時、歌詞にある”Get Hi”の部分がドラッグを連想させると物議をかもした曲ですが、今冷静に歌詞を見返してみると、ドラッグソングじゃないですね。当時の時代の雰囲気なのか、何でもかんでもドラッグに結び付けられがちです。まあ、中には本当にドラッグソングもあったようですが。
ともあれ、この曲はコール&レスポンス形式になっているオモシロイ曲です。リンゴのボーカルに絡むジョンとポールの声がまた良いんです。リンゴの楽曲になるとみんな積極的に協力しだすと感じているのは私だけでしょうか?非常にチームワークが良い作品です。
Lucy in the Sky with Diamonds
3曲目はジョンレノンの作品Lucy in the Sky with Diamondsです。サイケデリック色満載の楽曲で、不思議な魅力のある曲です。曲名の頭文字をつなげると、幻覚剤の"LSD"となるため、ドラッグソングとして位置づけられかけた曲です。
位置づけられかけた…、というのは作者のジョンが否定したため。ジョン曰く、息子のジュリアンが書いた、「友人のルーシーがダイヤモンドをして空を飛んでいる絵」にヒントを得て作ったとのこと。
ちなみに、1974年に発見されたアファール猿人の化石人骨がルーシーと名付けられていますが、これはこの曲のタイトルからつけられた名前です。
Getting Better
4曲目はポールによるGetting Betterです。ジョンレノンも歌詞の一部を作っています。ポールの曲には珍しくインドっぽいサウンドになっており、それもそのはず、ジョージハリスンがタンブーラを演奏しています。
超有名曲ではないですが、アルバム『サージェント~』の中にあって存在感抜群の曲。普通に良い曲です。何よりポジティブな歌詞がいいですね。
やっぱり、この時代のど真ん中を生きた人たちって、楽観的だったのかな?なんてことを感じさせてくれる曲です。
Fixing a Hole
5曲目もポールによる楽曲、Fixing a Holeです。
不思議な魅力を持つ曲ですね。Fixing a Hole、直訳すると穴を埋めるですが、スラングとして「ドラッグを注射した跡」という意味に合いなるようです。
ポールはドラッグソングじゃないっぽい発言をしていますが、「知っててやった」ものだと思います。Yellow Submarineの例もあるように、ポールはたまにこういった「きわどい」ところをついてきます。でも証拠不十分なので、確定することができない。
でもFixing a Holeは時代背景的にドラッグソングだと思います。「穴を埋める」歌って意味不明ですもん。
She's Leaving Home
She's Leaving Homeもポールによる楽曲です。ストリングスとオーケストラを用いた作品です。美しいサウンドとメロディとはうらはらに少女が家出をすることを歌った曲です。
子供は親のコントロール下にないという、ボブディランのThe Times They Are a-Changin' 的なメッセージのポールマッカートニーバージョンとも言える曲です。
ちなみにこの曲を編曲したのはジョージマーチンではありません。ジョージマーチンは他の仕事で多忙だったようです。もしジョージマーチンが制作に関わっていたら、どんな曲になっていたでしょうね。アンソロジーあたりで実現してほしかった。
この曲にジョンレノンがコーラスを付けているのが個人的に好きです。
Being For The Benefit Of Mr. Kite!
7曲目はアルバム『サージェント』の世界観をたっぷり反映させたBeing For The Benefit Of Mr. Kite!です。ジョンレノンの作品。サーカス団のポスターから着想を得て作られた作品です。
ジョンはさぼっているように見せかけて要所要所で佳曲を持ち込んできます。サウンドエフェクト使いまくりの曲で、とくにエンディング部分は録音した部分を細かく切って、それを空中に放り投げて、バラバラになったものをつなぎ合わせるという荒業によって生み出されています。
曲のテーマ通り、サーカスみたいな作り方をしています。
それともう一点、この曲にはスティーム・オルガンが使われているのですが、これはジョンの要望。「おがくずのにおいがする音」という抽象的なジョンの要望にジョージマーチンが答えた結果です。
おがくずのにおいがする音ってなに?
ここからが『サージェント~』の真骨頂 アルバムの後半
Within You Without You
8曲目は、ようやく出ました!ジョージハリスンのインドな曲です。この曲の演奏時間は5分以上あって、このころのビートルズの楽曲にしては長い!
ジョージハリスンは、前作『Revolver』でもインドっぽい楽曲を演っていましたが、ここまで本格インドテイストな曲はありませんでした。それにしてもインドです。1967年当時、この曲を聞いた人はどんな感想をもったのでしょうか。ぜひ聞いてみたいですね。
これほどまでにインドな楽曲が、西洋のポピュラー音楽のど真ん中を行くビートルズのアルバムに収録されているんです。挑戦以外の何物でもないと思います。
When I'm Sixty-Four
9曲目はポールマッカートニーによるWhen I'm Sixty-Fourです。ポールの父親が64歳になった記念?に作られた曲です。もっとも中間部分以外はポールが16歳の時に作っていたようです。
映画やドラマなどで、結構使われているのがこの曲。曲自体が使われているというよりも、「When I'm Sixty-Four」というフレーズはよく使われています。
このフレーズが出てきたら、まずビートルズを暗に意味していると考えて間違いないでしょう。ビートルズを知らない人からすると「なぜ64歳?」と思うでしょうが、知っている人にとっては「にやり」となるフレーズです。
When I'm Sixty-Four
海外映画や海外ドラマをみるときは注意して聞いてみてください。意外と、出てきますよ。
Lovely Rita
10曲目もポールマッカートニーによる作品です。テーマは女性警察官への恋です。ポールが交通違反の切符を切られたのが制作の切っ掛けになったとのこと。サウンド的にもいろんな工夫が凝らしてあって、飽きない作品です。
近年、ポールのコンサートでも演奏される作品で、思いのほかライブ映えする作品です。
それにしても、Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club BandやBeing For The Benefit Of Mr. Kite!、A Day in the Lifeもそうですが、ポールのコンサートで演奏される曲は、意外とアルバム『サージェント~』に収録されている曲が多いと思いませんか。
架空のバンドの演奏をソロになって本物が演奏するというこの構図がなんとも微笑ましい。
Good Morning,Good Morning
11曲目はジョンレノンの作品、Good Morning,Good Morningです。コーンフレークのテレビCMから着想を得て作られた作品です。
朝からなかなかハードなサウンドに仕上がっています。注目する点はリンゴスターのドラミングでしょうか。この曲のドラミングについて世間的にあまり言及されることはないのですが、じっくり聞いてみると、しびれるサウンドを作っています。最高です。
そして、動物の鳴き声のサウンドエフェクトです。鶏、小鳥、猫、犬、牛、馬、羊、ライオン、象の順に登場します。最後はギターで鶏の鳴き声を模したもの。演奏はポールマッカートニーでしょうか?
この曲から流れるように壮大なエンディングへと向かっていきます。
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)
12曲目は、再び架空のバンド、Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandの登場です。コンサートショウで言えば、終幕のあいさつにあたる部分です。ビートルズ、凝ってますねー。
同じ曲名の曲を登場させたのは、さすがにポールが多忙だったからと書いている本もありますが、Repriseで良かったんじゃないかと思います。このRepriseがあるのとないのじゃ全然印象が違っていたでしょう。
ポールが気合いをいれてHello,Goodbyeなんぞを作って収録した日にはコンセプトも何もあったもんじゃないですからね。さすがにそれはないか…。
ともあれこのRepriseでエンディングを迎え、そのままアンコール曲へ流れていきます。そのアンコールで歌われる曲こそ、世紀の名曲 A Day in the Life です。
A Day in the Life
ラストを飾るのはビートルズの代表曲と言ってもいい A Day in the Life です。この記事の最初のほうに『サージェント~』のよくある批判に "結局、A Day in the Life しか聞かねー"があると書きましたが、この気持ちは非常にわかります。
このアルバムの楽曲の中でA Day in the Lifeのクオリティは群を抜いています。もしかしたら他のビートルズ作品の中でもトップクラスのクオリティかもしれません。『サージェント』を聞くときは、なんだかんだで最後のこの曲を期待しています。
"結局、A Day in the Life しか聞かねー"
これが真実であれば、『サージェント』の評価はこの1曲に左右されているのかもしれません。この曲が入っているがゆえに史上最高のアルバムと評価されているのかもです。そう、考えるとこの曲の持つ破壊力は凄い!
ポピュラー音楽の評価・社会的地位を背負っている曲と言っても誰も文句は言わないでしょう。
よーく考えてみると"結局、A Day in the Life しか聞かねー"という意見が意味するところは、このアルバムに批判的な人であってもこの曲は認めているということですからね。
この曲の作者は、ジョンとポールの二人。完全共作です。共作といっても一から二人で作り上げたというよりも、二人が別々に作っていた曲を合体させてできた曲。この点もビートルズマジックが炸裂しています。
ジャケットのアートワークもコンセプトの1つ
以上がアルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』の全曲紹介でした。そして最後にもう一点、音楽面以外の部分に目を向けたいと思います。アルバムのジャケットです。
非常にカラフルで1960年代を象徴するジャケットです。レコードアルバムのジャケットという枠をはみ出し、もう現代アートのようです。
このアルバムのジャケットの中央にいるのが、Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandに扮したビートルズのメンバー。その左に、スーツにマッシュルームカットのいわゆる初期ビートルズの人形を登場させたのは、ビートルズとは別バンドであるというメッセージです。
”架空のバンドによるコンサートショウ”というコンセプトをアルバムのジャケットでも表現しており、ジャケットを含めて1つの作品であるというビートルズのメッセージになっているんです。
『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』は、どのような批判があるにせよ、想像力に富み、過去に類がないほど完成度の高いアルバムであることは間違いないです。
また、ロックを芸術作品にすることが可能であることを証明してみせた作品です。この作品がなければ、ロックや他のポピュラー音楽の今の地位はなかったでしょう。そういう意味でも『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』は、時代と社会をかえた作品なのです。
過大評価?
それは完全に間違っています。そうした意見が出ている時点で、むしろ…
過小評価されている!
作品じゃないかと私は思っています。
全オリジナルアルバムの聞きどころを紹介。詳しいアルバムガイドです。購入に迷っている方は読んでください。 クリックして詳しく読む
もう少しビートルズを詳しく知りたい方は、歴史を押さえておきましょう。10分で分かるバージョンを用意しております。そして、忘れちゃいけない名曲ぞろいのシングルの歴史もあります。
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